「普通三分だろ、三分。五分って長すぎだろ」

「何がっすか」

「いいか? ウルトラマンだって三分で怪獣をやっつけてんだぞ。なのに五分もかかってどうすんだよ」

「だから、何がっすか」

 俺が辟易としながら訊ねると、安孫子(あびこ)さんは口を尖らせて、「あれだよあれ」とテーブルを指差した。テーブルの上には、食べかけのインスタントのカップうどんが置いてある。

 あのインスタントうどんのテレビCMを昨夜見たなぁ、と思い出す。「麺のコシが変わりました」と起用されたタレントが、腰を可愛く左右に振りなら踊っていた。でも、うどんのCMはだいたい「コシが変わった」と謳っている気がする。毎回うどんのコシが変わるのなら、俺たちは今まで中途半端なものを食べさせられていたのかよ、といつも不信に思ってしまう。

 俺が「ごめんなさい、もうしません」と言うと、同棲中の彼女である葵(あおい)は「そのセリフは聞き飽きたんですけど」と怒る。うどんのCMも怒られればいいんだ、と現在の状況下で、全く関係ない不満を抱いた。

「うどんが三分だったら、間に合ったんだ」

 安孫子さんが鼻息を荒くし、俺に言う。眼前に安孫子さんの顔があるので鼻息が俺にかかり、不快感を覚える。俺は眉間に皺を寄せながら、「静かにしてくださいよ」と自分の唇に人差し指を当てた。

 リビングの扉が開かれ、住人が帰ってきた。俺と安孫子さんは潜水中であるかのようにぴたりと息を止め、クローゼットの隙間からリビングを窺う。

 逃げ足には自信があるが、今は動くことができない。

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